健康住宅の歴史

「健康住宅」は大正末期から社会に求められた。

「健康住宅」という言葉

住宅本体の問題が生んだ昭和後期の「健康住宅」

現代で「健康住宅」といえば、おそらく1980(昭和55)年代頃より、建築物に使用される建築建材に、人体には有害な揮発性化学物質が室内に充満し、住人に健康被害を与えた、いわゆる「シックハウス症候群」が大きな社会問題となり、建物本体の「病気になる家」に対し、有害な化学物質を使用しない、あるいは身体に悪影響を及ぼしにくい自然素材を使用した家を指し「健康住宅」なる言葉が生まれたと、記憶していた。

大正末期に求められた「健康住宅」

今回「健康住宅」という言葉を表題にした図書を国立国会図書館サイトで調べると、蔵書されている書籍の中で、始めて「健康住宅」という言葉を表題に使用した図書は、昭和5年(1930)大阪毎日新聞編「健康佳宅設計圖案集」発刊:大倉書店であることを知った。

時代的背景

大将時代に「健康住宅」が求められた時代背景

公衆衛生問題で「健康住宅」が求められた時代

明治期のコレラ大流行による大きな犠牲を払いつつも乗り越えた大正時代は、中期頃まで結核による感染者が増加傾向にあり、中期以降の死亡者数は、年間12万人前後で推移した。1919(大正8)年には、「結核予防法」が制定され、1937(昭和12)年には同法の改定が行われ、初めて結核患者の届出制度が設けられたが、届出対象者は「環境上結核を伝染させる恐れのある患者」に限定されていた。

参照:厚生労働省「我が国における健康をめぐる施策の変遷」

日本人の平均寿命と乳児死亡率

参考:

参考:厚生労働省大臣官房統計情報部「第19回 生命表」
   平成23年人口動態統計月報年計

厚生労働省の資料「完全生命表における平均余命の年次推移」によると、国内では5年に1度完全生命表の作成し平均余命の算出を行っている。第1回は、明治24〜31年に行われ、男が42.8年、女が44.3年と発表されていることから男女平均は約43.6年となり、第2回では約44.4年、第3回では約44.5年と、おおよそ44年前後で推移していた。ところが、第4回の大正10〜14年の調査では男42.06年、女43.20年、平均42.9歳と突然低下し、第5回の大正15年〜昭和5年の調査では、再び45.7歳と上昇し現在に至っている。

出生人数に対する乳児死亡率は、明治32年から大正4年まで、おおよそ15〜16%であったが、大正5年に17.03%大正7年には18.86%、と急増した。この数値は、5人に1人は死亡していたという今では信じられない死亡率である。ちなみに現代の乳児死亡率は0.19%。

明治初期より、おおよそ44歳前後で推移していた平均寿命が、大正14年に突然42.6歳と、現代の約半分、国内では明治以降最低の平均余命を記録した。乳児死亡率は、出生人口比率で明治38年の15.1%から大正9年に約16.6%へと急上昇し、国民の命に関わる大きな社会問題が発生した時代であった。

昭和5年:健康住宅設計図案募集

社会全体が生活様式の改善と健康増進を必要とした時代

昭和5(1930)年に大阪毎日新聞は、先に紹介した、大阪毎日新聞編「健康佳宅設計圖案集」を大倉書店から発刊している。

この図案集の前文には「東京日々とが全勢力を挙げ、全国民へ従来の生活様式を改善し健康増進運動の大プレスキャンペーンを行った。」とある。公衆衛生と健康は当時の社会にとって、非常に重要な問題であったに違いなく、同じく前文の中には「従来の日本住宅は外観は頗る立派でも往々日本特殊の風土、気候に適応しない非衛生的なものが多数ありました」と、住宅設計に健康という観点を失い設計されていた、との記述もある

まあ、現実的には、この令和を迎えた時代でも、気候風土はもとより、方位までも無視したような住宅を見かけることも・・・困ったものである。

激変した寿命

急激な変化のあった大正末期から昭和初期の平均寿命

上記の「日本人の平均寿命と乳児死亡率」を注意深く見ると、明治38年より徐々に増加していた乳児死亡率が、大正9年に急降下し現在に至っている。また、平均寿命も大正14年より急上昇している。このような劇的変化をもたらせた要因は、何か大きな社会の構造的要因があったのではないだろうか。

上記の「日本人の平均寿命と乳児死亡率」を注意深く見ると、明治38年より徐々に増加していた乳児死亡率が、大正9年に急降下し現在に至っている。また、平均寿命も大正14年より急上昇している。このような劇的変化をもたらせた要因は、何か大きな社会の構造的要因があったのではないだろうか。

建築の立場にいる者としては、大阪毎日新聞が公募した「健康住宅」に起因すると信じたいところではあるが、乳児死亡率の急激な低下が始まったのは、大正9年で時差があることから残念ながら、他の要因であると考えざるを得ない。

この劇的変化の要因として、元国土交通省河川局長の竹村公太郎氏は、ご自身の著書の中で、上水道の普及と水道水の殺菌であると、記している。

竹村氏はその著書の中で、水道事業は水を介して広がる感染症対策として、明治20年(1887)横浜市で国内最初の水道が給水開始され、明治38年までに10市に上水道が整備された時期と乳児死亡率の上昇が合致していること。また、上水道は当初、殺菌することなく水を給水しており、大正10年に初めて東京市で水道の塩素殺菌が開始されはじめた時期を境に乳児死亡率が急激に低下したとの主旨を書かれている。

詳しくは、竹村氏の著書「日本文明の謎を解く」清流出版刊を読んでいただきたい。

現代を生きる私たちにとっては、過去の問題ではある。しかし当時の人々にとっては、感染症対策として導入された水道で、一時的であったとはいえ逆に感染症が拡大し、乳幼児の命を奪った結果を生んだことは、時代の悲劇としか言いようがないのだが、当時の方には無念であったに違いなく、犠牲者の方々の冥福を祈るばかりだ。

時代は繰り返す

明治期の幼児死亡率を激変させるほどの被害ではないが、近年でも十分な検証を行うことなく、使い勝手が良いとか、性能が良い、便利などという理由だけで、アスベスト(石綿)やプラスチックを代表とする合成樹脂、農薬など新しいものを使いはじめてきた。

それにより、私たちは大きな犠牲を払ってきた。例えばカネミ油被害やヒ素ミルク事件、水俣病や四日市ぜんそく、イタイイタイ病などを代表とする公害病、アスベスト問題。シックハウス症候群などなど、現代の私たちはこれら犠牲者の上に成り立っているともいえる。

そして、自分自身や家族が犠牲者となるかもしれないのだ。

今、改めて末長く健康に暮らす住宅のあり方を再検討をしなければ、私たちの住宅にも危機が密かに進行している可能性がある。

特に、建築建材に使われるプラスチックを代表とする合成樹脂や農薬類を再検討しなければならない。

住宅設計と生活設計

あらためて

敷地選びは命の問題です
構造・工法は寿命に関わり
間取りは暮らし
素材選びは健康につながり
デザインは感性を磨き
設備は家計簿です

敷地選び

私たちは、災害が起こるたびに大きな犠牲を強いられ、尊い命を奪い取られてき他にもかかわらず、同じ過ちを繰り返し続けてきた・・・何故だろうか?

被災者の声に「自分だけは大丈夫だと考えていた」と、よく聴く。

尊い命を守るには「自分は危険と隣り合わせにいる」ことを認識し、危険を回避する術を身につけた上で、安心して暮らさなければならない。

新築計画で敷地を選ぶ時には、災害が発生しにくい土地を選ぶことが、家族の命を守ることにつながる。幸いにも、国内ではハザードマップが充実しつつあり、土地の安全性、危険性を事前に知ることができる。

現実問題として、安全な土地は割高であることに間違いはない。土地の専門家が判断し、良好で価値がある土地に高値をつけることは、市場経済では当然のことである。

割高の敷地では、新築予算が合わないかもしれない。しかし、住宅費用は新築時ばかりではく、新築後にも必要な経費が発生する場合がある。新築予算を考える場合には、生涯資金とともに計画すべきであり、そこに解決のヒントが必ず埋まっている。

さらに、安全な土地は大きな財産となりうるが、危険な土地が被災すれば敷地としての価値は無くなる。そして何より、間違った敷地を選ぶと、何物にも変え難い「家族の命」を奪われるかもしれない。

構造・工法

住宅建築に限って、大きな制限を受ける敷地であれば別だが、構造は基本的に木造。工法は在来軸組工法、もしくは木造伝統工法のいずれかを選ぶべし、その他の構造・工法は検討しなくとも良いだろう。

湿気や漏水による腐敗がなく、適正な建築用材を正しい場所に使用し、耐震性能を満たす木造建築物は強く、維持管理が楽であり、将来に渡り余計な出費を抑えられる長寿の構造であることは、建築の長い歴史からも証明されている。

そして、構造が正しく長寿であれば、室内環境も良好であり、人々も健康に過ごせるであろう。

間取り

間取りは「敷地、方位と調和を図り、暮らしをかたちにする」ことです。

例えば、社会の最小単位である夫婦二人の住宅であれば、広い1つの空間の中に、暮らしに必要とする設備危機や家具などを配置すれば、家全体が明るく、風通しも良く、室温にムラもなく、掃除も楽で良い事づくめだ。

例えるなら、フィリップ・ジョンソン設計の「グラスハウス」が参考になるだろう。

健康的な住宅の間取りは、最初に敷地に合わせた建物の形を決め、暮らしを考えながら適切な位置に適切な空間を配置し、眺望が良い方向に窓を配置し、見られたくない場所は壁にする。

間取りは1つの大きな空間から「間を取る」ように始めると良い。

素材

住宅には自然の素材が使われてきたものであるが

戦後の復興期に安価で使いやすく、クレームが発生し間取りにくい建築建材として、様々な新建材や接着剤、防腐剤などが使われはじめた。無垢材の柱に小さな節がありクレームになれば、集成材に美しい杢目の単板(突板)を接着剤で張り、無垢板のフローリングは、傷が付きやすくクレームになるので、土足で歩いても傷つかない樹脂が開発され、割れや伸縮により隙間が空きやすい無垢板の代わりに、樹脂を使った化粧合板が生まれ、工期が掛かり鏝(こて)ムラが出やすい壁は、誰でも簡単に綺麗に短時間で仕上げられるビニールクロスが、主流を占めるようになってしまった。

住宅会社の都合に合わせて製造される合成樹脂を大量に使用した住宅は、明治期の水道と同様に、このまま何の疑問も抱かずに使い続ければ、大きな犠牲を発生させるだろう。

合成樹脂には揮発性有機化合物が含まれ、身体に悪影響を及ぼす可能性が高く、樹脂の経年劣化は、定期的なメンテナンスを必要とし多額の出費を必要とする。さらに、住宅の寿命は合成樹脂の耐用年数に委ねられ、接着剤の体力性能が劣化すれば、住宅としての耐力はなくな理、地震時には崩壊する危険性もある。

もし、住宅そのものがその役目を果たす時、丁寧に取り扱えば、再利用や有効活用への道が開ける、自然素材と異なり、合成樹脂を含んだ建材は、金銭を払い廃棄するしか道はない。

昭和初期に発生した健康増進運動では、従来の生活様式を改善することが求められた。今回の新型コロナウイルス[covid-19]感染拡大では、世界的に新しい生活様式が求められている。

住宅の新築計画も、漠然と大量生産される従来の住宅を受け入れるのではなく、今一度立ち止まり、戦後の復興期に生まれた大量生産・大量消費型住宅から、日本の伝統を受け継ぐ「本物の健康住宅」を真剣に考える時だ。

そして、既にそのことに気付き「本物の健康住宅」を建築するため行動している方が多くいる。

デザイン

美しい住宅デザインが、健康で感性豊かな暮らしを生み出す

感性は、絵画や彫刻、ガラス、漆器、音楽などの芸術作品ばかりでなく、工業や服飾、ポスターなどのデザイン、また食も同じで本物や素晴らしい作品に触れることで私たちの感性が磨かれる。

もちろん建築の世界も例外ではなく、住む人の使い勝手や趣味趣向に立地条件に合わせ、空間のボリュームや窓の位置、大きさ、高さ光の入り方、壁の大きさ、素材の質感などなどさまざまな方向から検討を重ね、暮らしやすく美しく、居心地の良い住宅が健康であることに間違いはない。

そして、そのような住宅に住むことが、ご自身や家族の感性を敏感にし、日常より健康で感性豊かな暮らしを実現できる相乗効果を生み出す。

設備

給水管はヘッダー工法・分電盤は寝室・子供部屋から離れた場所に

給水管の主流は、ヘッダー工法の架橋ポリエチレン・ポリブデン管を使用しているだろうが、やはり樹脂であることから、できればステンレス管の使用を検討したい。また、残留塩素除去も間違った機器の選択をすると、将来後悔することになるので、留意が必要。

電磁波問題に関しては、非常に黒に近いグレーだと考えている。「君子危うきに近寄らず」の言葉通り、1日の大半を過ごす、寝室や子供部屋から遠い位置を選び、分電盤を設置するよう心がける。

また、癒しの空間である住宅の照明は、心身に大きな影響を与える。その位置や数、照明の色温度、操作方法まで考え配置することが好ましい。

同じく、耐用年数のある設備機器類は、交換が必要になった時、建物自体の改装が必要になるようでは、大きな経済的負担となる可能性もあるので、設備機器の導入は、必ず将来を見据えた選定が不可欠だ。

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